もがたり

「もが」こと、私・下河原のことを、のんびり語ります。

少年から青年へ

つい先日のこと。仕事の合間、駅のホームでぼんやりとしていたところに、声をかけられた。

「下河原先生、お久しぶりです!」

若々しい、爽やかな声に振り返ると、声の通りの好青年が立っていた。はて、こんな美男子の知り合いがいたかしら……なんて取り留めのない疑問も、彼が名乗ってくれたことで、すぐに解決する。昔の教え子だった。なくなってしまった学習塾だけれど、そこでのことはよく覚えている。彼はそこで教えていた、僕の最も古い生徒のひとりだ。数年越しに再会した面影に、僕は懐かしさとともに驚きを感じていた。月並みだが、大きくなったなぁ、とついそんな内容のことを口にしていた。

中学生の頃にあって、あの頃はやんちゃな男の子だったのに、今や働き始めて、いよいよ1人の大人なのだ。言葉のひとつひとつに丁寧な気持ちが滲んでいて好感のもてる、礼儀正しいふふまい。少年から青年への成長を目の当たりにした気持ちだった。そして、素直に再会を喜んでくれているように感じた。それがまた、こそばゆくて、僕はどことなく言葉少なになってしまっていたかもしれない。

担当した生徒というのはどの子にも情が湧くもので、その中でも、彼ともう1人の生徒のことは強い印象として残っている。仲のいい2人で、2人いっぺんに授業をしようものなら雑談に発展してしまって仕事にならないことなんて、日常茶飯事だった。そうやって毎週のように顔を合わせて、笑いあって、夢も悩みも打ち明けていれば、どうしたって気にかけるし、力になりたいと思うようになる。心の中で、存在感が大きくなる。そしてそれは、長くて3年ほどの、人生から見たらわずかな一時である。つまるところ、僕の中で、彼らは今も少年の姿のままなのだ。

一駅のあいだ隣の席で他愛もない話をして、彼は電車を降りて行った。希望の仕事に進んで、ひたむきに日々を暮らしているであろう彼の姿は、僕を大いに奮い立たせた。僕も負けじと、頑張らねばなるまい。心の奥で、ささやかに、種火が起こったのを感じていた。